一般的に算数や数学は多くのお子さんにとって、苦手科目の筆頭のような印象を受けます。
いっぽうで、これまでの塾や家庭教師の経験から、さらに発展的な事柄に取り組むのに十分な算数・数学に対する興味を持つお子さんも少なからず存在します。
このページではそうしたお子さんを対象として、小学校・中学校・高校といった枠にとらわれることなく、数学を自由に学んでほしいと思います。
テーマは高校で学ぶ「関数のグラフの平行移動」。
ただしグラフそのものは扱わず、基本的な考え方やイメージをつかんでもらうことが目的です。
途中に問題を挟みながら進めていきますので、このページををご覧の小中学生の皆さんに取り組んでいってもらいたいと思います。
小学生・中学生向け数学の問題編
問題編:王様が決めた計算ルール1
ある所にとても計算が好きな王様がいました。お城の北東側には南北方向に細長く伸びるとても広い庭があり、王様はよくその庭で野外パーティーを開きました。
広い庭のことですからどこを会場にするのか毎回頭を悩ませた王様は、こんなルールを考えました。
王様の国の道路は東西、南北方向へ碁盤の目のように作られています。進むときは必ず東西、南北方向だけで、それ以外の方向への移動はできません。
まず、その日王様が思いついた数字の分だけお城から東に進みます。王様が「60」と言えば60m、「今日は320じゃ」と言えば320mです。
次に、東に進んだ距離を2倍しさらに100を足した分だけそこから北に向かって進みます。
王様が「60」と言った日は60を2倍して100を足した数字、つまり220m北へということになります。そうして到着した場所がその日のパーティー会場です。
問題1
王様が決めた数字が250のとき、パーティー会場はお城から東に何m、北に何mの場所でしょうか。
問題2
東に進む距離をx m、北に進む距離をy mとして、y をx の式で表しなさい。
問題編:王子様が決めた計算ルール2
お城から東に120m、北に150mの場所に王子様の館があります。王子様もまた王様にならい、自ら数字を指定して同じルールで進み方を決め、そこでパーティーを開くことにしました。
出発地点は王子様の館です。
ただし、パーティーのための特別な料理は王様の居るお城で作って家来たちが会場まで運ばなければならず、その時にお城の家来へ伝えられるのは「今日はお城から東へ○m進め」という命令です。
お城からは、王子様の館を出発点にするときよりも東方向は120m多く進まなければなりませんから、王子様が「60」と決めた日は、お城の家来は「お城から東へ180m」と命じられることになります。
そして、そこから北へ進む距離は自分たちで計算しなければなりません。
問題3
王子様が決めた数字が180のとき、お城を出発した家来たちは東に何m、北に何mお料理を運ぶことになるでしょうか。
問題4
ある日の王子様のパーティーでは、お城の家来に「東へ720m」と命令が出ました。家来たちはお城を出て東に720m進みます。その後北へは何m進んだでしょうか。
問題編:見習いコックが考えた計算方法
お城で王様の料理番を務める人々中にまだ見習いのコックが1人おりました。彼に与えられる仕事といえばイモの皮むきばかり。
見習いコックは毎日イモの皮をむきながらこんなことを考えました。
お城から王子様の館までは東に120m、北に150m。王様も王子様も同じルールで北への移動を決める。
王子様のパーティーのときに伝えられるのはお城から東へ進む距離だけど、計算と移動は王子様の館を基準にして行われるから、王子様が実際にルールに当てはめるのはお城に伝えられる距離から120mを引いた数字か。
元のルールをそのまま使うためには、お城に伝えられる数字から120を引かなければならないんだね。
お城を基準にして計算をするときには、まず伝えられる距離から120を引いた数字をルールに当てはめて北への距離を求める。
出てきた数字は王子様の館から北へ移動する距離だから、お城からはさらに150mよけいに進まなければならない。ということは計算結果に150を足せばお城から北へ進む距離になるんだ。
これでお城へ伝えられた数字を使った1本の式で北への距離が計算できる!
そこへ料理長が通りかかりました。見習いコックが自分の計算方法を話してみると、料理長はしばらく考えてこう言いました。
待てよ……東方向の数字から120を引けば元のルールをそのまま使えるってことは、北方向も同じに考えて良いはずだな。
北方向も最初から150を引いておけば元の計算式をそのまま使えるってことだ。
王様のパーティーのときに使う式の東に進む距離をx m、北に進む距離をy mとすると、王子様のパーティーのときはx を(x -120)に、y を(y -150)に置き換えれば良いじゃないか!
問題5
王子様のパーティーのときにお城へ伝えられた数字x を使ってお城から北へ進む距離y を計算する式を書きなさい。
見習いコック、料理長どちらの考え方を参考にしても良いです。また、式は直接y を求める形(「y =~」の形)でなくても良いです。
問題編:計算ルールの変更
こうしてこの年を過ごした王様ですが、このルールでは南北に長く伸びる庭の北の端の方までは出かけて行けないことに気付きました。そこで翌年、こんな風にルールを改めるように言いました。
「去年のルールに従って東、北へ進んだ後、わしが最初に決めた数字自身を掛け合わせてその距離だけさらに北へ進め。」
王様が最初に決めた数字が60なら、まず東に60m、北へ220m進んだ後、60自身を掛け合わせた数字の分、つまり60×60=3600mだけさらに北へ進みます。
そうするとパーティー会場は、お城から東に60m、北に3820mの場所ということになります。
そして王子様もまた、王様の新ルールで自分のパーティー会場を決めることにしました。
問題6
王様が決めた新しいルールについて、東に進む距離をx m、北に進む距離をy mとして、y をx の式で表しなさい。
王子様のパーティーについて
問題7
王子様が決めた数字が80のとき、お城を出発した家来たちはお城から東に何m、北に何mお料理を運ぶことになるでしょうか。
問題8
ある日の王子様のパーティーでは、お城の家来に「東へ140m」という命令が出ました。このとき北へは何m進んだでしょうか。
問題9
王子様のパーティーのときにお城で使う計算式を、x とy の式で表しなさい。
ここまでで今回の問題は終わりです。少し難しかったでしょうか。
最後まで頑張った人にはもう1つおまけでスペシャルな問題をプレゼントしましょう。
ここから先に出てくる式は距離を計算するのに使えるようなものではありませんので、王様のお話とは切り離して考えてみてください。
問題編:見習いコックがさらに考えた計算式
料理長の考え方を聞いたコック見習いは、また自分の仕事に戻ってイモの皮をむきながら思いました。
「料理長のやり方は計算式自体は変えずに、ただ “置き換え” をするだけだな。ということは式がどんなに複雑になっても同じ方法で考えることができるのか。
じゃあ、こんな変な計算式を王様が思いついたとしたらどうなるんだろう?」
見習いコックは皮むきの手を止め、ポケットからメモ帳を取り出してこんな式を書きつけました。
xy +x2 +10x +2x =360
とその時、キッチンの奥から先輩コックの声。
「おい見習い、なにをサボっているんだ。今日からはキャベツの千切りもやってもらうからな。教えてやるからこっちへ来い!」
見習いコックは大急ぎでそちらの方へ消えていきました。
問題10
さて、見習いコックが書いた式を問題9と同じように作り変えると、どんな式ができあがるでしょうか。忙しくなった彼の代わりに考えてあげてください。
小学生・中学生向け数学の解答編
問題1の解答
王様が決めた数字が250のとき、パーティー会場はお城から東に何m、北に何mの場所でしょうか。
東へは250m。北へは250×2+100=600
で600m。
答え:東へ250m、北へ600mの場所
問題2の解答
東に進む距離をx m、北に進む距離をy mとして、y をx の式で表しなさい。
y は北へ進む距離を表すので、(1) の式で250とした所をx に置き換えたもので計算できます。
つまり
y =x ×2+100
となりますから、これを整理したものが答えの式です。
答え:y =2x +100
※小学生の皆さんへ
文字を使った式では、数字と文字、文字と文字の掛け算について、掛け算を表す計算の記号「×」を省略して書くことができます。
例えば「3×x 」は「3x 」、「x ×y 」は「xy 」。数字と文字のときは数字を前に、文字と文字のときはアルファベット順に書くのが原則です。
上の式は「y =x ×2+100」を、この約束事に従って書き表したものです。
問題3の解答
王子様が決めた数字が180のとき、お城を出発した家来たちは東に何m、北に何mお料理を運ぶことになるでしょうか。
王子様の館はお城から東に120m、北に150m離れた所にあります。
お城から出発すると、王子様が館から進むよりも東に120m、北に150m多く進まなければなりません。
王子様が館を出発して進む距離は東へ180m、
北へは180×2+100=460
で460mですから、答えは東への数字に120、北への数字に150をそれぞれ足したものです。
答え:東へ300m、北へ610m
問題4の解答
ある日の王子様のパーティーでは、お城の家来に「東へ720m」と命令が出ました。家来たちはお城を出て東に720m進みます。その後北へは何m進んだでしょうか。
今度は問題3とは違い、お城から東へ進む距離が分かっています。
ですから問題3のときとは逆に、120を引いて考えれば良いですね。
お城から東へ720m進むということは、王子様が言った数字は
720-120=600となります。
王子様の館から進む距離は東へ600m、
北へは600×2+100=1300となりますが、
この1300mは王子様の館から北へ進む距離ですから、お城からはさらに150m多く進まなければなりません。
従って、1300+150=1450
答え:1450m
問題5の解答
王子様のパーティーのときにお城へ伝えられた数字x を使ってお城から北へ進む距離y を計算する式を書きなさい。
見習いコック、料理長どちらの考え方を参考にしても良いです。
また、式は直接yを求める形(「y =~」の形)でなくても良いです。
「伝えられた数字から120を引いてルールに当てはめ北への距離を求めた後、それに150を足す」という見習いコックの考え方をそのまま式にすると、
y =(x -120)×2+100+150
これを整理して、
y =2(x -120)+250
さらにかっこの部分を計算して整理し、
y =2x +10
としても良いです。
一方、料理長の考え方は元の式、つまり(2)で求めた式のx を(x -120)に、y を(y -150)に置き換えるというものですから、
y -150=2(x -120)+100
となります。ただし、この式もさらに計算して整理すると、
y =2x +10
となって、これは先ほどの見習いコックの考え方に従って考えたのと同じです。結局、両方とも結果は一緒でしたね。
問題6の解答
王様が決めた新しいルールについて、東に進む距離をx m、北に進む距離をy mとして、y をx の式で表しなさい。
基本の式は同じで、王様が決めた数字自身を掛けあわせたもの、つまり x ×x =x2 だけさらに北に向かって進むので、その式は
y =2x +100+x2
となります。
高校の数学では、式の中心となる文字について指数が大きい順に並べていく方法がよく使われます。この方法に従うと上の式は、
y =x2 +2x +100
と整理されることになります。
並べ替えないと不正解という訳ではありませんが、こうした約束事も覚えておくと良いでしょう。
※小学生の皆さんへ
x の右肩に小さく示されている「2」の数字は「x を2回掛け合わせなさい」つまり「x ×x 」という計算方法を表すものです(もし右肩に「3」を書くと「x ×x ×x 」)。
この右肩の小さな数字のことを「指数(しすう)」と言います。
この「指数」を使わずに上の式を表すと
y =x ×x +2×x +100
となります。
問題7の解答
王子様が決めた数字が80のとき、お城を出発した家来たちはお城から東に何m、北に何mお料理を運ぶことになるでしょうか。
王子様が館から移動する距離は、東に80m、北に
802 +2×80+100
=6400+160+100
=6660(m)
です。お城からは東に120m、北に150mを足して
答え:東に200m、北に6810m
問題8の解答
ある日の王子様のパーティーでは、お城の家来に「東へ140m」という命令が出ました。このとき北へは何m進んだでしょうか。
お城から東へ140m進むということは、王子様が言った数字は
140-120=20となります。
王子様の館から進む距離は東へ20m、北へは
202 +2×20+100
=400+40+100
=540(m)
となりますが、お城からはさらに150m多く進む必要がありますから、
540+150=690が答えです。
答え:690m
問題9の解答
王子様のパーティーのときにお城で使う計算式を、x とy の式で表しなさい。
料理長の考え方に従って書き表してみましょう。
y -150=(x -120)2 +2(x -120)+100
です。
“x2 -120” ではないことに注意してください。どうです、できましたか?
この式はまた次のような形で書いても良いです。
y =(x -120)2 +2(x -120)+100+150
=(x -120)2 +2(x -120)+250
また、さらに式を計算して整理し、
y =x2 -238x +14410
と書くこともできます。
問題10の解答
答えの一例は次の様になります。
(x -120)(y -150) +(x -120)2 +10(x -120)+2(x -120) =360
小学生・中学生向け数学の早期学習まとめ
王様の計算をめぐる問題はいかがでしたか?
少し難しかったかもしれませんね。
ココがポイント
計算をする基準の場所がずれた場合は、ずれた分を引けば元のルール=計算式をそのまま使えるということです。
今回は扱いませんでしたが、グラフを使った問題も同じです。
もしグラフがそのままの形で左右上下にずれていった場合(「平行移動」と言います)も同じように考えることができるのです。
この考え方を使うと、中学校2年生で学習する1次関数の問題を別な角度から解くこともできます。
また中学校3年生で学習する2次関数についても、頂点が原点以外の場所にある放物線を取り扱うことができるようになります。
そうしたお話はまた別の機会に。
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